平成15年度 金沢大学入学宣誓式学長告辞

掲載日:2003-4-7
学長メッセージ

平成15年4月7日 金沢市観光会館

本日ここに1930名の新入生を迎え,平成15年度金沢大学入学式が挙行されましたこと,誠に慶賀に存じます。新入生の皆さんおめでとうございます。本学への入学を心から歓迎いたします。

金沢大学は,昭和24年に,第四高等学校,金沢高等師範学校,金沢医科大学,金沢工業専門学校の高等学校群を統合し,新制の総合大学として設立されました。爾来50有余年,日本海側にある我が国の基幹大学として,高等教育と学術研究の発展に大きく貢献してまいりました。そして,社会が大きく変化する中で,本学は積極的に大学改革に取り組み,来年に予定される腾讯体育に向けて新たな一歩を踏み出そうとしています。

世界は今,混沌とした激動の時代にあります。環境,資源,食糧,人口問題など,すべてが危機的状態にあり,そこには成長の限界が叫ばれています。そして,このような時期に勃発したイラク戦争は,これまで営々と築いてきた国際協調の秩序や,合意形成の道筋を崩壊させ,複雑で不安定な国際情勢を生み出すとともに,成長の限界を自ら早めようとしています。

国内に目を転ずると,日本経済は今なお低迷を続けています。経済は,市民の生活における物資や情報の生産,分配,消費に関わる営みを,経国済民を旨として行う活動ですが,グローバル化の進む市場経済は,国家間の競争を激化させています。このように国内外ともに不安定で先が見えない状況にあって,高等教育機関である大学には,社会をリードする人材の育成と学術研究の在り方が問われています。

20世紀の学術研究は,宇宙のマクロコスモスから,遺伝子の構造に及ぶミクロコスモスまで,多大な知見をもって産業の発展と生活水準の向上に貢献してきました。しかし,それらは専門化と細分化をもって進められ,得られた知見があまりにも無秩序に実践場に持ち込まれたことへの反省があります。人文?社会科学が人間の思考や言動,社会の諸現象を分析?考察するのに対して,自然科学や生命医科学においては,人間の本来あるべき姿を追求するという点で不十分であったことは否定できません。そして,このことが心身の分離と要素還元の手法を可能とし,それゆえ人間や社会との乖離をもたらしたとすれば,おのずと進むべき道は見えてくるはずです。すなわち,大切なことは,社会を意識した科学,science in societyであり,それは技術の調和や医療倫理に基づく科学であり,そのうえで新しさを打ち出していく学術であると言えましょう。

21世紀に求められる大学は,社会に位置づけられる大学,university in societyでありましょう。人類が多くの問題に直面している今,社会が大学に何を求め,大学が社会に対して何ができるかを考えねばなりません。

金沢大学は「地域に根ざし,世界に開かれた大学」を基本理念とし,教育を重視した研究大学を目指して大学改革を進めています。学部においては,カリキュラムの改訂,学生参加型の授業,e-ラーニング等を進めていますが,そこでは教官とともに,学生自らが学ぶ場を創り出そうとしています。大学院においては,設立の理念である学際性や総合性を標榜し,新領域を開拓する学術研究と,有為な研究者の育成を進めているところです。

諸君には,国家の一員として,地球市民として,そして企業人としてこれからの社会を担うことへの大きな期待があります。入学にあたって,これからの4年間でどのような教養を身につけ,どのように専門を学び,そのことが社会が変化する中で,どのような役割をもって発展するかを考えていただきたいと存じます。グローバルな市場経済が,国と世界の価値意識の狭間で揺れ動く以上,国際社会はいよいよ混迷を深めることでしょう。このように先行きが不透明な時代においては,広い視野で現実を直視し,一歩ずつ着実に前進することが大切です。学問においても,まず基礎を固め,その上でそれぞれの専門を追求せねばなりません。

諸君が本学で学び,友人と付き合い,金沢の町で生活する4年間は,まさにこのための期間です。教養的科目に多面的で柔軟な発想や学問のアプローチの仕方を学び,専門においては知的な基礎体力を養い,さらには国際的に通用する感覚とスキル,そして倫理観を身に付けていただきたいと存じます。

21世紀の大学は,社会に位置づけられる大学であり,学術?学問は社会を意識した科学です。そして,このような大学で学問を学ぶ諸君には,グローバルな国際社会に通用する社会人となることを期待いたします。

兼六園の桜もほころび,角間の山々の草木も一斉に萌動し始めています。諸君におかれては,伝統と歴史のある本学で学び,金沢の町で生活することを誇りとし,新たな活動を開始されますよう。社会の発展が,諸君一人一人の努力にあることを自覚し,実りのある4年間を過ごされるよう祈念し,告辞といたします。

平成15年4月7日
金沢大学長 林 勇二郎

 
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